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延べ3,000平方メートル以上のホテルと建築物衛生法|清掃と点検の頻度

保健所の立入りで「帳簿を見せてください」と言われて慌てた、という話をホテルの支配人からうかがうことがあります。一定の規模を超えるホテル・旅館は建築物衛生法(建築物における衛生的環境の確保に関する法律)上の「特定建築物」にあたり、清掃・空気環境・給排水・ねずみ等の防除について、法令で頻度まで決められた維持管理が求められます。しかも、その結果を帳簿に残して保存する義務まで含まれます。

ところが実務では、この頻度が清掃の委託契約に落とし込まれていないまま運用されている施設が少なくありません。日常清掃は毎日行っていても、「6か月以内ごとに1回」と決まっている項目が抜けていた、というケースです。この記事では、ホテルが特定建築物になる条件と、法令が求めている維持管理の頻度、そして委託先に確認しておきたい点を、条文にあたって整理します。

ホテル・旅館が「特定建築物」になる条件

建築物衛生法第2条第1項は、特定建築物を「興行場、百貨店、店舗、事務所、学校、共同住宅等の用に供される相当程度の規模を有する建築物(建築基準法第二条第一号に掲げる建築物をいう。)で、多数の者が使用し、又は利用し、かつ、その維持管理について環境衛生上特に配慮が必要なものとして政令で定めるもの」と定義しています。具体的な線引きは施行令第1条にあり、次の用途に供される部分の延べ面積が3,000平方メートル以上の建築物が該当します。

一 興行場、百貨店、集会場、図書館、博物館、美術館又は遊技場/二 店舗又は事務所/三 第1条学校等以外の学校(研修所を含む)/四 旅館

四号に「旅館」が置かれています。旅館業の用途に供される部分がここに入り、ホテルという名称の施設も旅館業の用途として扱われるのが一般的です。ここで注意したいのは、面積を用途ごとに別々に見るのではなく、一号から四号までに掲げられた用途に供される部分を合算した延べ面積で判断する点です。館内にテナントの店舗や事務所が入っていれば、その部分も足して3,000平方メートルに達するかを見ることになります。なお8,000平方メートル以上という基準もありますが、これは学校教育法第1条に規定する学校と幼保連携型認定こども園に限られた数字で、ホテルには当てはまりません。

では3,000平方メートルに満たない施設は無関係かというと、そうではありません。同法第4条第3項は「特定建築物以外の建築物で多数の者が使用し、又は利用するものの所有者、占有者その他の者で当該建築物の維持管理について権原を有するものは、建築物環境衛生管理基準に従つて当該建築物の維持管理をするように努めなければならない」と定めています。努力義務という形で、規模の小さい施設にも同じ基準が示されているとお考えください。実際、宿泊施設としての衛生水準を考えれば、この基準を目安に運用しておく意味は十分にあります。

建築物環境衛生管理基準の柱は空気・水・清掃・防除

特定建築物に該当すると、同法第4条第1項により、その所有者・占有者その他の者で維持管理について権原を有するものが建築物環境衛生管理基準に従って維持管理をする義務を負います。基準の対象は同条第2項が「空気環境の調整、給水及び排水の管理、清掃、ねずみ、昆虫等の防除その他環境衛生上良好な状態を維持するのに必要な措置」と定めており、具体的な中身は施行令第2条に3つの号として置かれています。第1号が空気環境の調整、第2号が給水及び排水の管理、第3号が清掃及びねずみ等の防除です。清掃は、この管理基準の柱のひとつとして法令に位置づけられているということです。

このうち空気環境については、空気調和設備を設けている場合の基準値が数値で示されています。浮遊粉じんの量は空気1立方メートルにつき0.15ミリグラム以下、一酸化炭素の含有率は100万分の6以下、二酸化炭素の含有率は100万分の1,000以下、温度は18度以上28度以下、相対湿度は40パーセント以上70パーセント以下、気流は毎秒0.5メートル以下、ホルムアルデヒドの量は空気1立方メートルにつき0.1ミリグラム以下です。あわせて、居室の温度を外気より低くする場合は「その差を著しくしないこと」とも定められています。

客室やロビーの温度・湿度は、宿泊客の快適性の問題として語られがちですが、空気調和設備を設けている特定建築物では法令上の管理項目でもあるという点は押さえておきたいところです。なお機械換気設備を設けている場合は、同号ロにより温度と相対湿度は基準の対象から外れ、浮遊粉じん・一酸化炭素・二酸化炭素・気流・ホルムアルデヒドが対象になります。

清掃とねずみ等の防除に決まっている頻度

清掃の頻度は施行規則第4条の5第1項にあります。条文は「令第二条第三号イに規定する掃除は、日常行うもののほか、大掃除を、六月以内ごとに一回、定期に、統一的に行うものとする」と定めています。

ここで見落とされやすいのが「統一的に」という言葉です。気づいた場所から順に手を入れるのではなく、対象範囲を決めて計画的に一巡させることが求められています。客室だけ、あるいは目につく共用部だけを回して終わり、という運用では条文の求めるところに届きません。

ねずみ等の防除は同条第2項第1号です。「ねずみ等の発生場所、生息場所及び侵入経路並びにねずみ等による被害の状況について、六月以内ごとに一回、定期に、統一的に調査を実施し、当該調査の結果に基づき、ねずみ等の発生を防止するため必要な措置を講ずること」とされています。つまり、駆除作業そのものより先に定期的な調査が義務づけられており、その結果を踏まえて対策を打つ、という順序です。「出たら呼ぶ」という運用とは考え方が違います。

なお、防除で殺そ剤や殺虫剤を使う場合は、医薬品医療機器等法の承認を受けた医薬品または医薬部外品を用いることも同項第2号で定められています。

給排水と空調まわりは項目ごとに周期が違う

給排水と空調は、項目ごとに周期がばらばらです。混同しやすいので、条文の単位で整理します。

まず飲料水です。施行規則第4条第1号は、給水栓における水に含まれる遊離残留塩素の含有率を100万分の0.1以上(結合残留塩素の場合は100万分の0.4以上)に保持することを求めています。同号にはただし書きがあり、供給する水が病原生物に著しく汚染されるおそれがある場合などは、100万分の0.2(結合残留塩素の場合は100万分の1.5)以上とされています。同条第7号は「遊離残留塩素の検査及び貯水槽の清掃を、それぞれ七日以内、一年以内ごとに一回、定期に、行うこと」と定めています。残留塩素の検査は週単位、貯水槽の清掃は年単位、という違いです。

水質検査は同条第3号にあり、水道事業の用に供する水道などから供給を受ける水のみを水源とする場合、省令で定める項目のうち一部については6か月以内ごとに1回、別の一部については毎年、測定期間中に1回、定期に行うこととされています。地下水などを水源に含む場合は、給水開始前の全項目検査や3年以内ごとの検査など、さらに細かい定めがあります。

排水は施行規則第4条の3です。「特定建築物維持管理権原者は、排水に関する設備の掃除を、六月以内ごとに一回、定期に、行わなければならない」と規定されています。

空調側は施行規則第3条の18です。冷却塔と冷却水、加湿装置、空気調和設備内に設けられた排水受けについて、使用開始時と使用開始後1か月以内ごとに1回、定期に汚れ(排水受けについては汚れ及び閉塞)の状況を点検し、必要に応じて清掃や換水等を行うこととされています。ただし、1か月を超える期間使用しない設備については、その使用しない期間は点検の対象外とされていますので、季節運転の冷却塔などはこの規定で読むことになります。さらに冷却塔、冷却水の水管、加湿装置の清掃は、それぞれ1年以内ごとに1回です。

空気環境の測定そのものは施行規則第3条の2第3号により2か月以内ごとに1回、定期に行います。ただしホルムアルデヒドはこの周期ではなく、同条第4号により、建築・大規模の修繕・大規模の模様替を行った階の居室について、使用を開始した日以後最初に到来する測定期間(6月1日から9月30日まで)中に1回、測定することとされています。

1か月、2か月、6か月、1年、7日。数字が並ぶと管理しづらく見えますが、年間カレンダーに落として担当を割り振れば運用に乗せられます。実務でつまずくのは、これらが清掃の委託契約と設備管理の委託契約に分かれてしまい、どちらの担当か曖昧な項目が生まれるときです。

届出・選任・帳簿という3つの手続き

維持管理の中身と並んで、手続き面の義務もあります。

ひとつ目が届出です。同法第5条第1項は、特定建築物所有者等は特定建築物が使用されるに至ったときはその日から1か月以内に、所在場所・用途・延べ面積・構造設備の概要・建築物環境衛生管理技術者の氏名などを都道府県知事(保健所を設置する市または特別区にあっては市長または区長)に届け出なければならないと定めています。用途変更や増築で新たに該当することになった場合も同様で、届出事項に変更があったときや該当しなくなったときも1か月以内の届出が必要です。

ふたつ目が選任です。同法第6条第1項により、特定建築物所有者等は建築物環境衛生管理技術者免状を有する者のうちから建築物環境衛生管理技術者を選任しなければなりません。同条第2項では、管理技術者が維持管理について意見を述べることができ、権原を有する者はその意見を尊重しなければならない、とされています。名前だけ置くポジションではない、ということです。

三つ目が帳簿です。同法第10条は、特定建築物所有者等に対し、維持管理に関し環境衛生上必要な事項を記載した帳簿書類を備えておくことを義務づけています。これを受けた施行規則第20条第1項は、空気環境の調整、給水及び排水の管理、清掃、ねずみ等の防除の状況(測定・検査の結果、設備の点検・整備の状況を含む)を記載した帳簿書類のほか、平面図・断面図や設備の配置・系統を明らかにした図面などを備えておくことを求めています。このうち維持管理の状況を記載した帳簿書類などについては、同条第2項で5年間の保存が定められています。図面類は保存年限が定められているものではなく、備え付けておくべきものという位置づけです。

これらに対しては、同法第11条による報告徴収・立入検査、第12条による改善命令や使用停止・制限の規定が置かれています。罰則としては同法第16条が、第5条の届出をせず若しくは虚偽の届出をした者、第6条第1項に違反した者、帳簿書類を備えず若しくは記載をしない者、第12条の命令に違反した者などを30万円以下の罰金としています。金額の大小より、宿泊施設として衛生管理の指摘を受けること自体が評判に直結する点のほうが重いといえます。

委託先に確認しておきたい3つのポイント

清掃や設備の管理を外部に委託している場合、契約書と実務のあいだにずれが生まれやすいのは次の3点です。

ひとつ目は、頻度が契約の中に書かれているかです。日常清掃の範囲は細かく決まっているのに、6か月以内ごとの大掃除やねずみ等の調査が「必要に応じて」となっていると、実施されないまま時間が過ぎます。法令が周期を定めている項目は、周期ごと契約に落としておくのが安全です。

ふたつ目は、実施の記録が帳簿に残る形で戻ってくるかです。作業報告書が現場で回覧されて終わりでは、5年間保存すべき帳簿書類になりません。誰が、いつ、どの範囲を実施したかが分かる書式で受け取り、施設側の帳簿に綴じ込める運用にしておく必要があります。

三つ目は、担当範囲の切れ目がないかです。客室清掃は清掃会社、貯水槽は設備会社、防除は専門業者と分かれること自体は珍しくありませんが、そのつなぎ目にある項目(排水設備の掃除、空調の排水受けの点検など)が抜け落ちることがあります。年間の管理表を一枚にまとめ、項目ごとに担当を明記しておくと、抜けが見えるようになります。

特定建築物に該当するかどうかの判断や、個別の届出・運用については、所管の保健所に確認していただくのが確実です。この記事は条文の内容を整理したもので、個々の施設の状況に対する判断を示すものではありません。

【この記事で参照した条文】建築物における衛生的環境の確保に関する法律(昭和45年法律第20号)/同法施行令(昭和45年政令第304号)/同法施行規則(昭和46年厚生省令第2号)。条文はいずれもe-Gov法令検索で公開されている現行の内容によります。

ホテルの清掃と設備管理のご相談はライフスタッフへ

株式会社ライフスタッフは、ホテル・旅館の客室清掃と共用部清掃を全国対応で受託しています。あわせて、消防設備点検・空調設備保守点検・建築設備調査・給排水衛生管理といった設備管理もホテル向けにお受けしていますので、清掃と設備の担当が分かれることで生じる抜けについてもご相談いただけます。

「日常清掃は回っているが、6か月ごとの項目まで手が回っていない」「委託先が複数に分かれていて、年間の管理表が誰の手元にもない」といった状態は、現場の努力ではなく体制の設計で解ける部分が大きい領域です。人員の確保に不安がある施設についても、外国人スタッフを含む人材ネットワークを活かして体制づくりからご提案します。まずは現在の運用をお聞かせください。

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