ホテル客室のトコジラミ対策|清掃で見つける痕跡と広げない手順
東京都保健医療局は、近年、都内の保健所等に寄せられるトコジラミに関する相談が増えているとしています。厚生労働省も令和5年12月22日付の事務連絡で、都道府県や保健所設置市、特別区に対し、旅館業の営業者などへトコジラミ対策を周知徹底するよう依頼しました。このとき同省は、全国旅館ホテル生活衛生同業組合連合会や一般社団法人全国生活衛生同業組合中央会などに加えて、公益社団法人全国ビルメンテナンス協会と公益社団法人日本ペストコントロール協会にも事務連絡を出しています。宿泊施設の団体だけでなく、建物の清掃・管理や駆除を担う業界の団体も、連絡の宛先に入っているということです。
トコジラミの駆除そのものは専門の防除業者の仕事です。一方で、日々客室に入り、ベッドに触れ、リネンを運び出しているのは清掃スタッフです。痕跡に最初に行き当たるのも、気づかずに広げてしまうのも、清掃の現場であることがあります。この記事では、厚生労働省が事務連絡に別添し、周知への活用を求めた「旅館・ホテルのための害虫対策の手引書」(東京都ホテル旅館生活衛生同業組合・全日本シティホテル連盟(現・一般社団法人全日本ホテル連盟)発行、一般社団法人日本旅館協会発行協力、2013年3月)と、東京都が旅館業の施設管理者向けに作成したパンフレット「トコジラミQ&A」、厚生労働省のチラシ、大津市保健所のリーフレットをもとに、清掃の工程で何を見て、見つけたときにどう動けば他の客室へ広げずに済むのかを整理します。
清潔にしていても持ち込まれる|ホテルでトコジラミが厄介な理由
最初に押さえておきたいのは、トコジラミの発生は清掃の良し悪しとは別の問題だということです。手引書は「清潔・不潔とは関係がないが」という見出しを立て、どんなに清潔にしていても、掃除していても、トコジラミの被害に遭うことがあると書いています。同じ手引書のQ&Aでも、不潔、清潔に関わらず、吸血源の人や動物のいる場所で繁殖するとされています。
では、どこから来るのか。厚生労働省のチラシは、卵や幼虫が荷物や衣服の裏、ポケットなどに付着して室内に持ち込まれることがあるとしています。北海道保健福祉部のページには、キャリーケースのタイヤ部分やシーツなどに忍んで部屋から部屋へ広がる、という書き方もあります。宿泊施設は、毎日違う人が違う荷物を持って出入りする場所です。持ち込まれること自体を防ぎ切るのは難しく、手引書のQ&Aも、侵入を未然に防ぐことはできないと明言しています。
そのうえで手引書は、旅館やホテルはトコジラミを持ち込まれた被害者だが、持ち込まれたトコジラミをそのまま放置しておくと、今度は加害者になってしまう、と続けます。広がり方にも特徴があります。東京都のパンフレットには、各種の配管や配線、ダクト、天井裏、ドアの下の隙間、壁の隙間などを利用してあちこちの部屋に広がった例が挙げられています。1室で見つかったときに、その1室だけの問題として片付けられないのはこのためです。
さらに厄介なのが、気づくのが遅れやすいことです。手引書によれば、トコジラミに初めて刺された人は最初の頃は痒くなく、刺された経験のない人が刺され始めた初期の頃は、痒みなどの症状が出るまで1〜3週間くらいかかる場合が多いとされています。一度にたくさん刺された場合は症状が早く現れ、過去に刺された経験のある人はすぐに痒くなるなど、出方には個人差があります。それでも、初めて刺されたお客様であればすぐには症状が出ないため、トコジラミが発生していても苦情は出にくく、管理者が気づかないうちに数を増やしてしまうことがある、というのが手引書の指摘です。お客様からの申し出だけを頼りにしていると、気づくのが遅れることがあります。
ただし、見つけること自体も簡単ではありません。令和2年に発行された東京都のパンフレットは、少ない段階での発見はきわめて困難で、早期に探知する方法は開発されていない、目で調べることが主体になるだけに調査に時間がかかる、としています。手引書も、トコジラミは夜行性で目視点検だけでは発見が困難なため、トラップによる捕獲で生息調査を行うとしています。さらに、厚生労働省の生活衛生関係技術担当者研修会(2024年2月)で一般財団法人日本環境衛生センターの講師が示した資料は、気づきにくい理由として、小さいこと、夜間に活動すること、トラップで捕獲しにくいことを挙げ、密度が低い段階では明るい時間帯は見つけにくいとしています。日中に行う清掃での目視は早期発見の手段の一つであって、それだけで見つけ切れるものではありません。専門業者の調査と組み合わせて考えることが前提になります。
駆除の難しさも知っておく必要があります。東京都のパンフレットは、広く使われているピレスロイド系殺虫剤に抵抗性を持つものが増えつつあるとの報告に触れています。手引書も、薬局で購入した殺虫剤では十分な効果が得られないことがあるとしています。経営への影響として手引書が挙げているのは、売り止めによる売上損失、駆除や清掃、リフォームなど復旧のための費用、宿泊料や治療費、自宅の駆除などの賠償・補償、従業員の退社による損失、風評被害による客離れのおそれです。
清掃スタッフが最初に探すのは虫ではなくフンです
トコジラミを見つけるというと、虫そのものを探す場面を想像しがちです。しかし手引書が示している「見つかりやすい順」は、フン、生きているトコジラミ、抜け殻・死がい、卵(殻)の順です。発見の手がかりとして真っ先に目に入るのは、虫よりもフンだということです。
フンは、トコジラミが吸血したあとに残す黒っぽい点です。東京都保健医療局のリーフレット「知っていますか?トコジラミ」(令和7年12月)は、生息している場所には血糞(けっぷん)という黒いしみが多く見られるとしています。手引書の写真資料には、小さな墨色の点、またはそれより小さい黒い点(約1〜2mm)とあり、1〜3個程度のわずかなフンにも注意するよう書かれています。「ゴミの様なものが実はトコジラミや糞だったりする」という注意書きもあります。見慣れない黒い点を、ただの汚れとしてその場で拭いて終わりにしないことが大切です。手引書は、確認したフンや抜け殻は次回の点検までに掃除して取り除くよう書いていますから、取り除くこと自体は必要です。そのうえで、取り除く前に写真を撮って報告し、どう扱うかは責任者や業者の指示に従う、という順番を決めておくと、痕跡が記録に残ります。
虫の見た目についても、共通の理解を持っておきたいところです。厚生労働省のチラシでは、成虫の体長は5〜8mm、体型は丸く扁平で薄いとされています。東京都のリーフレットでは色は褐色です。幼虫はさらに小さく、東京都のパンフレットは、生まれた幼虫を1〜2mm程度で発見が困難としています。手引書も、幼虫は乳白色から薄い黄色の、目立ちにくい色だとしています。卵は約1mmで白っぽく、これも肉眼では見落としやすい大きさです。
探す場所の考え方として、手引書は二つのポイントを挙げています。一つは、人が寝るところや長時間いるところの周辺、つまりベッド、布団、ソファ、椅子で、特に隙間、隅、角、上部、下部、暖かいところ。もう一つは、まずフンを探し、そのうえで卵、抜け殻、成虫、小さな幼虫も探すことです。点検に便利な道具としては、隙間を照らす懐中電灯(ヘッドライトでもよい)と、拡大して確認するためのむしめがねが挙げられています。
東京都のパンフレットは、トコジラミを早期発見するためには、日頃から客室の清掃や寝具の交換などの際に、潜みやすいポイントを点検することが重要だとし、そのためにも施設管理者は従業員にトコジラミについて周知するよう求めています。大津市保健所のリーフレットも、従業員がトコジラミを見つけてもトコジラミだと分からない、ということにならないよう従業員教育を徹底し、普段から清掃時に発生の有無を確認する必要があるとしています。ベッドメイクやリネン交換でマットレスやヘッドボードに触れる清掃スタッフは、日常的に客室の状態を見られる立場にあります。その立場を生かせるかどうかは、何を見るかを知っているかにかかっています。
客室で潜みやすい場所|ベッドまわりから外側へ
東京都のパンフレットによると、トコジラミが一番多いのは寝室で、ベッド周りをはじめ、あらゆる隙間に潜り込んでいます。一方で、風呂場や厨房にいることは通常ないとされています。点検の優先順位は、まず寝るところ、次にその周りの家具や壁、という順に組み立てるのが合理的です。
洋室について、手引書と大津市保健所のリーフレットは次のような場所を図示しています。ベッドのヘッドボード裏とボトム(台座)の裏、マットレスの縫い目や折り目、ナイトテーブルの裏。壁側では、コンセント周り、巾木、額の裏、時計の裏、鏡の裏、部屋の角や隅。窓まわりでは、カーテンの折り目、カーテンボックスの内側、エアコンと壁の隙間。家具では、クローゼットの内側、デスクの内側と裏、椅子の裏です。とくにマットレスについて手引書は、縫い目や通気穴から内側に侵入して潜んでいることがよくあると書いています。
和室の場合、東京都のパンフレットは、ふとんを入れる押入れ、畳の縁や裏、床の間などを挙げています。手引書の和室の図には、障子枠の接合部分、障子と敷居の間、ふすまと鴨居の間、ふすまと敷居の間、柱の隙間、床まわりの隙間、縁布まわり、壁掛けの裏、天井や壁の隅、地袋の隅々などが示されています。布団を上げ下ろしする旅館では、押入れも点検の範囲に入れておく必要があります。
もっとも、客室を回す時間には限りがあります。これだけの場所を毎回すべて見るのは現実的ではありません。そこで、シーツを外すタイミングでマットレスの縫い目とヘッドボードまわりに目を通すといった「毎回の清掃で見る場所」と、家具の裏やカーテンボックスのように「決めた周期でまとめて見る場所」に分けておくと、清掃の流れを崩さずに続けられます。連泊や清掃不要のプランが続く客室は、シーツを外す機会そのものが少なくなりますから、シーツ交換の回かチェックアウト後の清掃で確実に見る、と決めておきます。手引書も、日常の点検を定期的に行うこと、係と調査日を決めること、調査の記録を残すことを挙げています。記録があれば、発生したときに対処のヒントになることがあるとされています。
見つけたら、まず「広げない」|その場でやること・やらないこと
トコジラミやその痕跡を見つけたとき、清掃の現場で最も避けたいのは、清掃そのものがトコジラミを運ぶ作業になってしまうことです。大津市保健所のリーフレットは、清掃作業によって気づかないうちにトコジラミの発生が隣の部屋等に広がることがあるため注意が必要だとしています。東京都のパンフレットには、ホテルでトコジラミの付着したシーツをカートに入れたため、他の新しいシーツに移り、他の部屋にも広がった、という例が載っています。
手引書は、トコジラミを発見したときにまずすることを、チェックリストの形でまとめています。部屋から何も持ち出さない。部屋に物を持ち込まない(あとで持ち出せなくなる)。証拠になる虫を捕獲して、ビニール袋に密封する。リネンやカーテンはビニール袋に入れてクリーニングに出す。壁やベッドなどにむやみに触れない。部屋を出る前に、粘着テープで衣服や靴の付着物を取る。部屋をできるだけ冷やして動きを鈍らせる。部屋に入室できる人を限定する。割れ目や隙間を養生テープで目張りする。駆除業者に連絡を入れる。周囲の部屋も調査対象にする。記録を残す。
清掃スタッフの動きに置き換えると、次のようになります。その客室の清掃作業はそこで止め、ベッドや家具を動かして奥まで確かめようとはしない。清掃カートや、その部屋で使った道具類をそのまま次の客室へ持ち回らない。外したリネンを通常の回収袋やカートに混ぜない。リネンやカーテンは、ビニール袋で密封したうえで、リネン業者と決めておいた方法で他と分けて出す。自分の衣服や靴に付いていないかを確認してから部屋を出る。そのうえで、決められた連絡先に報告する。清掃を外部に委託している施設では、委託先の現場責任者を通じた報告と指示の経路も、あわせて決めておきます。発生が分かった客室で掃除機を使うかどうか、使ったあとのごみや機器をどう扱うかも、自己判断せず業者の指示を待つ項目に入れておきます。どれも、見つけた瞬間に迷わず取れるよう、あらかじめ手順として決めておかなければ実行できない動きです。
やってはいけないことも決めておきます。代表的なのが燻煙剤です。手引書は燻煙剤を使用しないよう求めており、大津市保健所のリーフレットは、くん煙を使用するとトコジラミが他の部屋等に逃げ込んで、かえって被害が拡大することがあるとしています。東京都のリーフレットにも、くん煙殺虫剤を使用することで、かえって生息範囲が広がってしまうこともあると書かれています。手引書には業務用エアゾール剤による応急処置の手順も載っていますが、その冒頭で、原則としてトコジラミ駆除は専門業者に委託するよう書かれています。市販の殺虫剤も十分な効果が得られないことがありますから、清掃スタッフが現場の判断で薬剤を使うのではなく、駆除業者に任せる線を引いておくのが安全です。
室温について、手引書は、発見したらまず部屋をできるだけ冷やして動きを鈍らせることを挙げ、部屋を30度前後に暖めるのは駆除業者の指示があった場合としています。空調を誰が操作するのかを決めておき、暖める方向の操作は業者の指示を待つ、としておくと混乱しません。
なお、発生が分かっている客室にもう一度入る場面について、手引書は服装にも触れています。使い捨ての合羽やツナギ、ビニール袋や不織布の靴カバー、使い捨て手袋を着け、脱ぐときは部屋の玄関内で脱いでその場でビニール袋に密封する、という手順です。白いツナギは重篤な感染症が発生したと間違われることがあるので、着用の際には周りの目に注意するよう、という宿泊施設ならではの注意書きも添えられています。
リネン・寝具・カーテンの扱い|カートと回収の段階で広がることがあります
宿泊施設でトコジラミが広がる経路として、清掃側がとくに意識したいのがリネンです。客室から客室へ、毎日大量に移動しているものだからです。
東京都のパンフレットは、シーツ類はビニール袋に入れて固く縛り、他のものと区別するよう求めています。手引書も、リネンやカーテンをビニール袋に入れてクリーニングに出すとしています。熱に関しては、大津市保健所のリーフレットが、シーツ、カーテン等の布類は熱湯・スチームや乾燥機等による熱処理を行うとし、東京都のパンフレットも、衣類は洗濯や熱風乾燥で駆除できるとしています。
リネンの洗濯を外部に出している施設で考えたいのは、情報の行き来です。北海道保健福祉部のページは、リネン管理業者等と協力し、血糞等の痕跡を発見した場合の情報共有体制を構築することも有用だとしています。客室で痕跡を見つけたときに、その客室から出たリネンであることが業者側に伝わるか。逆に、業者側で回収したリネンに血糞らしい汚れを見つけたときに、どの客室から出たものかをたどれるか。この両方向の連絡の道筋を平時のうちに業者と話し合っておくと、発生したときに慌てずに済みます。区別のしかたは施設ごとに違ってかまいませんが、発生したその日に初めて決めようとすると、現場は混乱しやすくなります。
布団を上げ下ろしする旅館では、布団そのものが客室と押入れや布団部屋の間を行き来します。疑いのある客室の布団は、押入れや布団部屋に戻さず、他の客室の布団と重ねないことを徹底してください。
マットレスのように簡単に運び出せない寝具については、手引書が、マットレスは殺虫剤を使用しない場所としている海外の対策マニュアルに触れたうえで、エンケースメントと呼ばれるマットレスカバーを被せて閉じ込める方法や、スチームクリーナーによる蒸気で殺虫する方法を紹介しています。ただ、発生した客室の寝具をどう処理するかは、駆除業者の調査結果を踏まえて決めることです。清掃側でまず徹底したいのは、疑いのある寝具や家具を別の客室や倉庫へ移さないことです。
駆除は専門業者へ|清掃側の役割は「見つける・止める・見届ける」
東京都のパンフレットは、ホテル、旅館などの宿泊施設での対策として、トコジラミ駆除の経験豊富な防除業者に依頼することを挙げています。被害を受けた部屋を徹底的に調査し、ベッドを分解して薬剤で駆除し、ベッド周りの家具、電化製品、壁の絵、カーテンなども丁寧に調べて駆除あるいは廃棄する。そして、こうした調査・駆除は周囲の部屋、できたら同一フロアのすべての部屋で実施すること、とされています。厚生労働省のチラシは、相談先として、被害への対応に関する一般相談は保健所、調査や防除に関する相談はペストコントロール業の事業者団体を案内しています。厚生労働省が令和5年12月22日付で全国旅館ホテル生活衛生同業組合連合会に宛てた事務連絡も、清掃作業を外部の事業者に委託している施設で、日常清掃や大掃除の際にトコジラミが見つかったときは、その事業者ではトコジラミの防除ができない可能性があるとして、トコジラミに関する専門的知見を有するペストコントロール事業者の活用を検討するよう、営業者への周知を求めています。
手引書の「対策の流れ図」を清掃の立場から読むと、清掃側が関われる場面が見えてきます。平常時の調査(モニタリング)から始まり、発生があれば、駆除業者への依頼と並んで「自社にて初期対応」という枠が置かれています。そこから専門業者による入念な調査に進み、報告・計画・見積もりと駆除計画の協議、他の部屋の調査、専門業者による駆除と駆除への協力が続きます。駆除のあとは協力体制で効果を判定し、効果が不十分なら再び駆除に戻り、駆除完了となれば平常時の調査に戻る、という循環です。
この流れのなかで清掃側が担えるのは、三つの場面です。一つ目は平常時の調査で、日々の清掃のなかで異変に気づくこと。二つ目は発生時の初期対応で、痕跡を記録してから業者の指示を待ち、物を動かさず、リネンを混ぜずに、業者が調査できる状態で止めること。周囲の客室を確認する場面でも、潜みやすい場所を知っている清掃スタッフの目が生きます。前述の研修会資料は、最も重要なポイントは寝具であるとしたうえで、天井やコンセントの穴などに痕跡が見られる場合は、上下左右の隣室にも生息している可能性があるとしています。三つ目は駆除のあとで、効果判定への協力と、その後の平常時調査に戻ったときの観察役を務めることです。流れ図では効果判定は協力体制で行うものとされており、客室を販売に戻すかどうかは、その結果を踏まえて施設側が決めることになります。判定の考え方の一例として、研修会資料は、1週間から1か月の間隔で2回調査して痕跡がなければ生息なし(駆除完了)とし、発疹や「かゆい」といった訴えだけでは生息の有無は判断できないとしています。公的な基準として定められたものではありませんが、業者と判定のしかたをすり合わせるときの参考になります。清掃スタッフが「もう大丈夫そうだ」と判断して通常清掃に戻してしまうことのないよう、戻す判断をする人をあらかじめ決めておいてください。
発見時の連絡フローや売り止めの運用、ゲスト対応の役割分担といった、害虫全般に共通する初動の組み立て方は、当コラムの「客室で害虫が発生したときの対応|清掃側の予防策と発見後の連絡フロー」でも整理しています。トコジラミの場合は、そこに「周囲の部屋、できれば同じフロアまで調査の対象になる」「リネンやカート、清掃作業を通じて広がることがある」「市販の薬剤では十分な効果が得られないことがある」という三つの事情が加わる、と考えると整理しやすくなります。
平時の備え|点検の担当とタイミングを決めておく
手引書は、早期発見のために必要な要素として、従業員教育(清掃時に意識すること等)、捕獲トラップの利用、調査の仕組みづくり(係と調査日の設定等)、予防処置(マットレスエンケースメント等)の四つを挙げています。先に触れたとおり、目視点検だけでは見つけにくいとされている以上、トラップや予防処置をどうするかは、防除業者とも相談しながら施設として決めることになります。そのうえで清掃の側が受け持ちやすいのが、従業員教育と調査の仕組みづくりです。なお、大津市保健所のリーフレットは、防除方法の「施設で取り組める対応例」として、掃除機で隅々まできめ細やかに清掃すること、隙間を埋めて潜める場所をできる限りなくすことなども挙げています。発生が分かった客室で掃除機を使う場合の扱いは、先に書いたとおり業者の指示に従ってください。
教育では、写真を使うことをおすすめします。フン、抜け殻、卵、幼虫は、言葉で説明されても現場で見分けられるものではありません。発行元の資料を教材として使う場合は転載や複製の条件を確認し、見本の掲示物は自館で撮った写真でつくるなど、どこを見て、何を見つけたら、誰に伝えるのかが一目で分かる形にしておくと、多国籍のスタッフが働く現場でも共有しやすくなります。見つけた人が「騒ぎを大きくしたくない」と黙ってしまわないよう、報告した人が責められない空気をつくっておくことも欠かせません。
点検のきっかけも決めておきます。手引書は、苦情が出やすいケースとして、過去にトコジラミ被害の経験があるお客様、同じ部屋に長期滞在するお客様、何度も同じ部屋を利用するお客様、同じ場所のソファやマッサージ機、椅子などを好んで使うお客様を挙げ、この場合でも「ダニがいる」と表現するお客様がいるので注意するよう書いています。客室から「ダニ」「虫刺され」の申し出があった場合は、トコジラミの点検項目で客室を確認する、という運用にしておくと取りこぼしが減ります。また、厚生労働省のチラシは、トコジラミは吸血しなくても長期間生きることができるため、長く空室になった部屋でも注意が必要だとしています。長期間使っていなかった客室やフロアを開けるときも、点検のタイミングに加えておいてください。
制度面では、旅館業法第4条第1項が「営業者は、旅館業の施設について、換気、採光、照明、防湿及び清潔その他宿泊者の衛生に必要な措置を講じなければならない。」と定めており、厚生労働省も、全国旅館ホテル生活衛生同業組合連合会宛ての事務連絡で、トコジラミ対策に関してこの条文を挙げています。また、厚生労働省の「旅館業における衛生等管理要領」は、施設の維持管理のうち清掃やねずみ・昆虫等の防除について、建築物衛生法に規定される建築物環境衛生管理基準を守るよう求めており、3,000平方メートル未満の施設についても努力義務としています。規模の小さい施設だから関係がない、とは言えないということです。
ホテル客室のトコジラミ対策と清掃体制のご相談はライフスタッフへ
株式会社ライフスタッフは、ホテル・旅館の客室清掃と共用部清掃を全国でお引き受けしています。トコジラミの駆除は専門の防除業者の領域です。そのうえで、日々の清掃のなかで異変に気づけるか、見つけたときに他の客室へ広げずに止められるかは、清掃の手順と教育によって変わってきます。
シーツ交換のついでに見る場所と、周期を決めて見る場所を整理したい。検品の項目を見直したい。痕跡を見つけたときの報告の順番と、リネンや道具の扱いを決めておきたい。スタッフに伝わる見本を用意したい。こうしたご相談を、清掃基準や作業手順の策定、スタッフ教育の設計とあわせて承ります。駆除の方法や客室を販売に戻す時期は、防除業者の調査と判断を踏まえて決めていただくものですので、その点は専門業者や保健所にご相談ください。
清掃を担う側として、トコジラミへの備えを一緒に整えていければと考えています。気になることがあれば、まずはお問い合わせください。