体調不良の宿泊者が出た客室の清掃|改正旅館業法と感染症への備え
秋から冬にかけては、発熱やせきなどの体調不良を訴える宿泊者が出やすい季節です。フロントから「〇〇号室のお客様が体調を崩されている」と連絡があったとき、その客室の清掃をどう進めるか、連泊中の部屋に入ってよいのか、チェックアウト後はいつもと何を変えるのかを、その場で考えていては現場が迷います。
2023年12月13日に施行された改正旅館業法では、宿泊を拒むことができる感染症の範囲や、営業者が宿泊者に協力を求められる場面が整理されました。本記事では、株式会社ライフスタッフが、ホテルの支配人・運営担当者の方に向けて、改正旅館業法で何が決まっているのかを確認したうえで、体調不良の宿泊者が出た客室の清掃について、あらかじめ決めておきたいことを整理します。
改正旅館業法の「特定感染症」と季節性の感染症の違い
改正旅館業法(令和5年法律第52号による改正・2023年12月13日施行)では、「特定感染症」という言葉が新しく定義されました。旅館業法第2条第6項によると、特定感染症とは、感染症法に定める一類感染症、二類感染症、新型インフルエンザ等感染症、指定感染症(入院等の規定を準用するもの)、新感染症のことです。
宿泊を拒むことができる事由も、改正前の「伝染性の疾病にかかつていると明らかに認められるとき」から、旅館業法第5条第1項第1号の「特定感染症の患者等であるとき」に改められました。厚生労働省の指針では、この改正によって、改正前は対象に含まれるかが条文だけでは不明確だったハンセン病元患者やHIV/エイズ等の感染者・患者等が、対象に含まれないことが明確化されたと説明されています。
一方で、季節性のインフルエンザは感染症法で五類感染症に分類されており、特定感染症には含まれません。新型コロナウイルス感染症についても、指針に「令和5年5月8日をもって五類感染症に移行し、旅館業法における特定感染症には該当しないものとなった」とあります。冬場に現場で出会う体調不良の多くは、改正旅館業法の特別な規定の対象ではなく、通常の衛生管理の中で対応していくものだと整理できます。
なお、旅館業法第5条第1項は、各号に当たる場合を除いては「宿泊を拒んではならない」と定めています。発熱やせきがあるというだけで宿泊をお断りできるわけではない点は、フロントだけでなく、清掃を含む現場全体で共有しておきたいところです。
協力の求めは「特定感染症国内発生期間」に限られる
改正で加わった旅館業法第4条の2は、営業者が宿泊しようとする者に対して、感染防止に必要な協力を「求めることができる」と定めています。症状がある方に対しては、医師の診断の結果などの報告や、みだりに客室などから出ないことといった協力を求められる仕組みです。
ただし、この協力の求めは、特定感染症のまん延の防止に必要な限度において、「特定感染症国内発生期間に限り」行えるものです。発生期間は、感染症ごとに国内で発生した旨の公表などを基準に定められています。季節性インフルエンザや新型コロナウイルス感染症は特定感染症ではないため、この規定を根拠にして客室での待機を求めることはできません。
また、厚生労働省の改正旅館業法の特設ページでは、ほかの宿泊拒否事由に当たる場合を除き、協力の求めに正当な理由なく応じないことのみをもって営業者が宿泊を拒むことは認められず、宿泊しようとする者に罰則が科されるものでもないと説明されています。清掃スタッフが体調不良の宿泊者を見かけたときに、自分の判断で「部屋から出ないでください」と伝えるようなことは、法律に基づく協力の求めとはいえず、宿泊者対応の面からも避けるべきです。宿泊者へのお願いや案内は、フロントや施設の責任者が行うものとして役割を分けておきます。
特定感染症の疑いがあるときは保健所等の指示に沿って進める
まれではありますが、宿泊者が特定感染症にかかっている、またはその疑いがあるという場面も、手順としては想定しておく必要があります。厚生労働省の「旅館業における衛生等管理要領」(令和8年1月20日付の通知で一部改正された版)は、宿泊者等の傷害・事故等に備える措置の項で「特定感染症に宿泊者等がかかっており、又はその疑いがあるときは、保健所等の指示を受け、その使用した客室、寝具及び器具類を消毒、廃棄等必要な措置を行うこと」としています。
ここで大切なのは、客室や寝具をどう処理するかを、清掃の現場が独自に決めないことです。保健所等の指示が出るまでは、その客室をいつもの清掃の順番に組み込まず、入室を控えて施設の責任者からの連絡を待つ、という流れにしておくと現場が迷いません。同じ項では、事故等の発生に迅速で適切に対応できるよう、医療機関等との通報網の整備等の組織的体制を確立しておくこととされています。清掃の担当者がその連絡網のどこに入り、誰から指示を受けるのかも、あわせて決めておくとよいでしょう。
なお、衛生等管理要領は国から自治体への技術的な助言として示されているもので、具体的な衛生措置の基準は、旅館業法第4条第2項に基づいて都道府県(保健所を設置する市・特別区を含みます)が条例で定めています。細かな運用は、施設を所管する保健所に確認しておくと確実です。
季節性の感染症が疑われる客室の清掃で意識したいこと
インフルエンザや新型コロナウイルス感染症などの急性呼吸器感染症について、厚生労働省の「令和8年度冬季 急性呼吸器感染症(ARI)総合対策に関するQ&A」(令和8年9月30日版)は、主な感染経路を飛沫感染、接触感染、エアロゾル感染等としています。対策としては、手洗い、うがい、マスク着用、換気等が有効とされています。客室清掃に置き換えると、次の3つが軸になります。
一つ目は換気です。旅館業法第4条第1項は、営業者に換気や清潔などの衛生に必要な措置を講じることを求めています。同じQ&Aでは、対角線上にあるドアや窓を2か所開放すると効果的な換気ができるとされています。客室は窓が開かない、開いても少しだけという造りも多いため、清掃の間は空調や換気設備を止めない、入口のドアを開けておけるならそうする、といった客室ごとのやり方を決めておくと迷いません。入口を開けておく場合は、防犯や鍵管理の決まりとぶつからないよう、施設のルールに合わせておきます。
二つ目は、手が触れる場所の拭き取りです。ドアノブ、照明やエアコンのスイッチ、リモコン、電話、デスクの天板、水栓のレバー、便座や洗浄ボタンなどは、ふだんの清掃でも拭いている場所ですが、体調不良の宿泊者が使った客室では、拭き残しがないように順番を決めて確実に拭くことが大切です。厚生労働省・経済産業省・消費者庁の「新型コロナウイルスの消毒・除菌方法について」では、テーブルやドアノブなどのモノについて、次亜塩素酸ナトリウムの濃度が0.05%になるように薄めて拭いたあとに水拭きする方法や、濃度70%以上95%以下のエタノールで拭き取る方法が示されています。このページは新型コロナウイルスを対象にまとめられたものなので、ほかの病原体への効果まで示したものではない点には注意が必要です。また、次亜塩素酸ナトリウムは酸性のものと混ぜると塩素ガスが発生して危険であること、金属を腐食させる可能性があること、人がいる空間への噴霧は行わないこと、エタノールには引火性があることも、同じページで注意されています。どの薬剤をどの場所に使うかは、施設と清掃の担当者であらかじめ決め、現場で判断しなくてよい形にしておきます。
三つ目は、スタッフ自身の手指の衛生です。同じQ&Aでは、流水・石鹸による手洗いが接触や飛沫感染などを感染経路とする感染症の対策の基本とされ、インフルエンザウイルス・新型コロナウイルスにはアルコール製剤(エタノール濃度80%前後)による手指衛生も効果があるとされています。手袋を使う場合も、外したあとの手洗いまでを一連の手順にしておきます。体調不良の宿泊者が在室している客室に入るときのマスクの着用も、あわせて決めておきます。
シーツや枕カバー、布団カバー、寝衣など直接肌に触れるものは、ほかの客室と同じく、衛生等管理要領の寝具の項で示されているとおり、宿泊者1人ごとに洗濯したものと取り替えます。回収するときに強くはたかない、ほかの客室のリネンと袋を分けるかどうかを決めておく、といった扱いは、リネンの洗濯をどこが担っているかによっても変わるため、施設のルールに合わせてそろえておくとよいでしょう。なお、嘔吐物がある場合は、ノロウイルスを想定した嘔吐物の処理手順に切り替えます。
連泊中に体調を崩した宿泊者の客室はどうするか
判断に迷いやすいのが、連泊中の宿泊者が体調を崩し、客室で休んでいる場合です。休んでいる方の部屋に清掃で入ることは、宿泊者の負担にもなりますし、スタッフにとっても気をつかう場面です。
このような客室については、清掃に入るかどうか、入るならいつにするかを、フロントが宿泊者の意向を確かめたうえで清掃の担当者に伝える流れにしておくと、現場が迷いません。清掃スタッフが部屋の前で宿泊者に体調を尋ねたり、清掃の要否をその場で聞き取ったりするのは、宿泊者のプライバシーにも関わるため、役割として持たせないほうが安全です。ただし、宿泊者がぐったりしている、呼びかけに反応しないなど急を要する様子があるときはこの限りではなく、119番通報を優先し、あわせて責任者へ報告します。
清掃を見送る日が続く場合は、タオルやアメニティの受け渡しの方法や、寝具の交換の扱いもあわせて決めておきます。連泊中のシーツやカバー類・寝衣の交換の頻度は、衛生等管理要領の寝具の項で寝衣は毎日、その他のものは3日に1回は少なくとも取り替えることとされていますが、条例での定め方は自治体によって異なります。宿泊者の希望で清掃を控える場合の扱いも含めて、施設を所管する保健所に確認しておくと確実です。
清掃スタッフの体調管理と欠員への備え
宿泊者だけでなく、清掃スタッフが体調を崩す季節でもあります。衛生等管理要領は、従業者の衛生管理の項で、感染症法により就業が制限される感染症にかかっている者またはその疑いのある者を、まん延させるおそれがなくなるまでの期間、業務に従事させないこととしています。就業制限の対象となる感染症は感染症法で定められた範囲に限られますが、発熱などの症状があるスタッフが無理に出勤しなくて済むよう、体調不良のときの連絡方法と、休んだ分の人員をどう補うかを決めておくことは、どの感染症にも共通する備えです。
特に冬場は、スタッフの欠勤が重なると客室の回転に響きます。欠員が出たときに誰が判断し、清掃の優先順位をどう組み替えるのかを、あらかじめ決めておくと慌てずに済みます。清掃を委託している場合は、委託先の責任者に欠員の連絡が集まり、委託先の側で人員を手配する流れになっているかを確認しておきます。
また、旅館業法第3条の5第2項は、営業者に対し、特定感染症のまん延の防止に必要な対策を適切に講じ、高齢者、障害者その他の特に配慮を要する宿泊者に適切なサービスを提供するため、従業者に必要な研修の機会を与えるよう努めなければならないとしています。改正旅館業法の趣旨や、宿泊者の病状を口外しないといった基本的な考え方を、清掃スタッフも含めて共有しておくと、現場での判断がそろいやすくなります。
体調不良の宿泊者が出たときのためにホテルと委託先で決めておきたいこと
ここまでの内容を、施設と清掃の担当者(清掃を委託している場合は委託先)の間で取り決めておきたい項目としてまとめます。
まず、連絡の流れです。体調不良の宿泊者がいることを清掃の担当者に誰がどう伝えるのか、清掃スタッフが客室で異変に気づいたときに誰へ報告するのかを決めておきます。呼びかけに反応しないなど命に関わるおそれがあるときは、119番通報を優先し、あわせて責任者へ報告する流れにしておきます。清掃を委託している場合、清掃スタッフへの指示や報告の受け取りは委託先の責任者を通す形にしておくと、請負としての体制とも合います。
次に、客室ごとの扱いです。特定感染症の疑いがある客室は保健所等の指示が出るまで清掃に入らないこと、季節性の感染症が疑われる客室は換気・拭き取り・手指衛生を確実にする手順で進めること、連泊中の客室はフロントの確認を経てから入ることなど、場面ごとの手順を書き出しておきます。使う薬剤や手袋などの資材を誰が用意するのかも、ここで決めておきます。
そして、情報の扱いです。体調不良の宿泊者がいる客室を清掃の担当者に伝える際、客室リストにどのように書くのか、その情報を誰まで共有するのかを決めておきます。宿泊者の病状はプライバシーに深く関わる情報です。清掃に必要な範囲で伝え、それ以外の場で話題にしないことを、ルールとして明確にしておきます。
これらは一度決めれば終わりではありません。冬の感染症シーズンの前に見直したり、保健所から新しい案内があったときに更新したりすることで、現場が迷わずに動ける状態を保てます。
出典:旅館業法・感染症法(e-Gov法令検索)、「旅館業の施設において特定感染症の感染防止に必要な協力の求めを行う場合の留意事項並びに宿泊拒否制限及び差別防止に関する指針」(厚生労働省・令和5年11月15日)、「旅館業における衛生等管理要領」(厚生労働省・令和8年1月20日の改正までを反映した版)、「令和8年度冬季 急性呼吸器感染症(ARI)総合対策に関するQ&A」(厚生労働省・令和8年9月30日版)、「新型コロナウイルスの消毒・除菌方法について」(厚生労働省・経済産業省・消費者庁)。本記事は、これらをもとに株式会社ライフスタッフが要約・編集して作成したものです。
体調不良の宿泊者が出たときの客室清掃のご相談はライフスタッフへ
体調不良の宿泊者が出たときの客室清掃は、改正旅館業法で何が決まっていて何が決まっていないのかを押さえたうえで、換気・拭き取り・手指衛生といった基本の手順と、連絡の流れや情報の扱いを施設のルールとしてそろえておくことが土台になります。宿泊者への案内や保健所とのやり取りは施設が担い、清掃の現場はその決まりに沿って動く、という役割分担をはっきりさせておくことで、いざというときも落ち着いて対応できます。株式会社ライフスタッフは、ホテル・旅館の客室清掃を請負としてお引き受けしています。清掃基準・作業範囲・報告方法はご契約前にすり合わせ、当社の責任者を通じてスタッフへの指示・管理を行います。体調不良の宿泊者が出たときの連絡の流れや役割分担も含めて、施設に合った客室清掃の進め方を整えたいときは、お気軽にご相談ください。