ホテル客室のシャワーとレジオネラ対策|給湯設備の点検と清掃の頻度
ホテルのレジオネラ対策というと、大浴場や露天風呂の循環式浴槽を思い浮かべる方が多いかもしれません。けれども、厚生労働省の指針がレジオネラ属菌の発生源として挙げている設備には、入浴設備のほかに「給湯設備」も含まれています。大浴場のないビジネスホテルでも、客室には必ずといってよいほどシャワーがあり、その湯は給湯設備から届いています。
レジオネラ症とは、レジオネラ属菌による感染症のことです。菌を含んだ細かい水しぶき(エアロゾル)を吸い込むことで感染することが知られており、客室のシャワーはまさにそのしぶきを生む設備です。この記事では、ホテル・旅館の支配人や運営ご担当者に向けて、客室のシャワーと給湯設備について厚生労働省が示している目安、使われていない客室や休館明けに気をつけたいこと、日々の客室清掃で担えることと専門の管理に任せることの分け方を、株式会社ライフスタッフが整理します。大浴場や、客室露天風呂など湯を循環させる浴槽の管理は本記事の対象外とし、循環式浴槽については同じコラム内の「大浴場のレジオネラ対策」の記事で取り上げています。本記事の内容は2026年9月時点の資料にもとづいています。
客室のシャワーと給湯設備でレジオネラ対策が必要な理由
客室のシャワーと給湯設備は、レジオネラ属菌が増えやすい条件と、それを人が吸い込む経路の両方がそろいやすい場所です。厚生労働省の「レジオネラ症を予防するために必要な措置に関する技術上の指針」(平成15年厚生労働省告示第264号)は、この点を次のように説明しています。
指針によれば、レジオネラ属菌は「入浴設備、空気調和設備の冷却塔、給湯設備、加湿器等の水を使用する設備に付着する生物膜に生息する微生物の細胞内で大量に繁殖し」、これらの設備から発生したエアロゾルを吸入することによって感染することが知られています。生物膜とは、配管やタンクの内側などに微生物が付着してできる、ぬめりの膜のことです。シャワーについては、厚生労働省の「旅館業における衛生等管理要領」も、気泡発生装置等を設置した浴槽や打たせ湯と並べて、シャワー等は「エアロゾルを発生させ、レジオネラ属菌感染の原因ともなりやすい」と書いています。
指針は、対策を特に徹底すべき施設として、多数の者が利用する公衆浴場や旅客船舶などと並べて「宿泊施設」を名指ししています。さらに、レジオネラ肺炎は症状だけで他の肺炎と見分けることが難しく、病勢の進行も早いため、高齢者、新生児、免疫機能の低下を来す疾患にかかっている方には特に注意を要する、としています。ご高齢のお客様や、療養中のご家族を連れたお客様が泊まることもある宿泊施設にとって、客室の水まわりは軽く見られない設備です。
給湯設備について、指針は「湯温の制御がレジオネラ属菌による汚染を防止する上で最も必要である」と書いています。あわせて、湯水が貯湯槽や給湯のための配管内で滞留すると微生物が繁殖しやすくなるとし、特に循環式の中央式給湯設備では、湯水の滞留を防ぐ措置が必要だとも述べています。指針が給湯設備の基本的な考え方として挙げているのは、この湯の温度の管理と、湯水を貯湯槽や配管の中に長くとどめないこと、の二つです。これを土台に、次の章で見る加熱装置の温度や、貯湯槽の定期的な排水と清掃といった具体的な措置が示されています。
厚生労働省が示す給湯設備とシャワーの管理の目安
給湯設備の湯温と清掃については、先の指針と、厚生労働省の「旅館業における衛生等管理要領」(以下、衛生等管理要領)に具体的な目安が示されています。数字は資料ごとに書き方が少し違うため、それぞれの記載を分けて紹介します。
まず指針の第四「給湯設備における衛生上の措置」です。貯湯式の給湯設備や循環式の中央式給湯設備を設置する場合は、「貯湯槽内の湯温が六十度以上、末端の給湯栓でも五十五度以上となるような加熱装置を備えることが必要である」とされています。維持管理については、「貯湯槽等に滞留している湯水を定期的に排水するとともに、一年に一回以上、貯湯槽等の清掃を実施すること」とあり、循環式の中央式給湯設備では、設備全体に湯水が均一に循環するよう循環ポンプや流量弁を適切に調整することも求めています。貯湯槽とは、温めた湯をためておくタンクのことです。
次に衛生等管理要領です。入浴用の給湯・給水設備について、「1年に1回以上保守点検し、必要に応じて被覆その他の補修等を行うこと」としています。貯湯槽の温度は、通常の使用状態で湯の補給口や底部に至るまで60℃以上に保ち、最大使用時においても55℃以上に保つようにすること、これにより難い場合には貯湯槽内の湯水の消毒を行うこと、とされています。
ただ、湯温を保つために貯湯槽や給湯器の設定温度を上げると、客室の蛇口やシャワーから出る湯も熱くなり、お客様がやけどをするおそれがあります。東京都の「東京都こどもセーフティプロジェクト」も、浴室で熱いシャワーなど湯の温度設定のミスによるやけどが起きていること、乳幼児は皮膚が薄く、大人にとって低い温度でもやけどのリスクがあることを挙げています。設定温度を見直すときは、施設の判断だけで変えず、客室の水栓で湯温を調節するしくみも含めて、設備の管理業者やメーカーに相談してください。
シャワーそのものについては、衛生等管理要領の「浴室の管理」にある清掃と消毒の表に項目があります。そこでは、シャワーは「少なくとも週に1回、内部の水が置き換わるように通水」し、「シャワーヘッドとホースは6か月に1回以上点検し、内部の汚れとスケールを1年に1回以上洗浄、消毒」とされています。スケールとは、水に含まれるカルシウムなどが固まってこびりついたもので、白っぽい水垢として目に見えることもあります。スケールや汚れはシャワーヘッドの内側にもたまり、生物膜の足場になります。
この表は客室のシャワーにも関係します。衛生等管理要領は「浴室」を「浴槽等入浴設備を有する室又は場所」と定義しており、客室に付属する浴室を「浴室の管理」の対象から外す記載はありません。共同浴室だけに求める事項は、要領の中で別に書き分けられています。そのため、客室のユニットバスのシャワーについても、少なくとも週に1回の通水、6か月に1回以上のシャワーヘッドとホースの点検、1年に1回以上の洗浄と消毒を目安として押さえておくのが安全です。ただし、同じ「浴室の管理」には浴槽水を常に満杯に保つことなど、大浴場を想定したとみられる項目も並んでおり、要領の内容のどこまでが条例に取り込まれているかも自治体によります。自館の客室の浴室で具体的に何を求められるかは、次の章で触れる条例と、施設を所管する保健所の指導で確認してください。
守るべき基準はどこで決まるのか
宿泊施設が実際に守るべき衛生上の基準は、旅館業法にもとづいて、各地の条例で定められています。厚生労働省の指針や要領は、その土台となる考え方や目安を示したものです。
旅館業法第4条第1項は、「営業者は、旅館業の施設について、換気、採光、照明、防湿及び清潔その他宿泊者の衛生に必要な措置を講じなければならない。」と定めています。そして同条第2項が、「前項の措置の基準については、都道府県が条例で、これを定める。」としています。保健所を設置する市や特別区では、その市や区の条例が基準になります。
一方、衛生等管理要領は、厚生労働省から都道府県知事・保健所設置市長・特別区長にあてた通知に添えられたもので、通知自体に、地方自治法第245条の4第1項にもとづく「技術的な助言」であると明記されています。要領に書かれた頻度や温度がそのまま全国一律の義務になるわけではなく、どこまでを条例に取り込んでいるかは自治体によります。ただし、条例で求められていないからといって要領の目安を軽く扱ってよい、ということにもなりません。レジオネラ症の予防という目的は同じだからです。
もう一つ、建物の規模によってかかわる法律があります。衛生等管理要領は、施設の維持管理のうち空気環境の調整、給水及び排水の管理、清掃、ねずみ・昆虫等の防除について、建築物衛生法に規定される「建築物環境衛生管理基準」を遵守すること、とし、3,000平方メートル未満の施設については努力義務と添えています。建築物衛生法は、旅館や店舗・事務所など政令で定める用途に使う部分の延べ面積が3,000平方メートル以上の建物を「特定建築物」としており、これに当たるホテルでは、客室の給湯も、建物全体の給水・給湯の管理の一部として扱われます。
自館の客室シャワーや給湯設備について、どの頻度で何をすればよいかがはっきりしない場合は、施設を所管する保健所に確認するのが確実です。そのうえで、設備を管理している担当者や業者と、次の章以降の内容をすり合わせておくと、日々の運用に落とし込みやすくなります。
使われていない客室と休館明けの給湯に気をつけたいこと
客室の給湯で見落とされやすいのが、しばらく湯が流れていない客室です。閑散期に閉めているフロア、改装や修繕で使っていなかった客室、稼働が低く何日も予約が入らなかった部屋などでは、シャワーや蛇口までの配管の中に湯水がとどまったままになります。
先に見たとおり、指針は湯水が配管内で滞留することで微生物が繁殖しやすくなると述べています。衛生等管理要領も、「特に留意すべき事項」の中で、「新規営業開始時や休止後の再開時は、レジオネラ属菌が増殖している危険性が高いので、十分に消毒した後に営業開始、再開するよう注意すること。」と書いています。この一文は大浴場を含む入浴施設全体についての記述ですが、客室の給湯でも、湯をためたまま使わなかった期間のあとに気をつけるという考え方は共通です。
要領のシャワーの項目にある「少なくとも週に1回、内部の水が置き換わるように通水」という考え方は、使われていない客室の運用に取り入れやすいものです。使われていない客室も、1週間を超えて湯が流れない状態にしないよう、シャワーと蛇口から湯水を流して配管の中の水を入れ替える手順を、施設のルールとして決めておくとよいでしょう。販売に戻す前にも同じ作業を行うと安心です。どのくらいの時間流すのか、誰がいつ行って記録するのかは、設備の構造や保健所の指導によって変わるため、設備の管理担当と相談して決めてください。
なお、指針は対策の観点の一つとして「エアロゾルの飛散の抑制」を挙げていますが、通水の作業のしかたまでは定めていません。当コラムからのおすすめとして、湯を流すときは、シャワーヘッドを浴槽の底のほうに向けてから湯を出す、換気扇を回しておく、といった動作を手順に書いておくと、作業をするスタッフがしぶきを吸い込む機会を減らす工夫になります。
長期の休館や大規模な改装のあとは、客室ごとの通水だけでは足りません。先に引いたとおり、要領は休止後の再開について「十分に消毒した後に」と求めています。貯湯槽や配管を含めた消毒の方法と範囲を、営業を再開する前に設備の管理業者と決め、保健所にも確認しておいてください。
日々の客室清掃で担えることと専門の管理に任せること
客室の給湯とシャワーの衛生管理は、毎日客室に入る清掃スタッフが気づけることと、設備の専門知識が必要なことに分けて考えると、抜けのない体制を組みやすくなります。
清掃スタッフが担いやすいのは、目で見て、触れて気づける変化の確認と報告です。シャワーヘッドの散水板に白い水垢や黒ずみがたまっていないか、散水の穴が詰まって湯の出方が偏っていないか、シャワーホースにひび割れや折れ癖がないか、といった点は、バスルーム清掃の流れの中で確認できます。湯がなかなか温まらない、以前よりぬるく感じる、湯を出したときに濁りや異臭がある、といった変化も、清掃スタッフが最初に気づくことの多いサインです。こうした変化は、その場で判断せずに設備の管理担当へ報告する決まりにしておくことが大切です。湯温が下がっていることは、指針が汚染防止に「最も必要」とする湯温の管理に、異常が出ているサインかもしれないからです。
冬に向けては、客室に置く加湿器にも目を向けておきたいところです。指針は、家庭等で使う卓上用や床置き式の加湿器について「タンクの水は、毎日完全に換えるとともに、タンク内を清掃すること。」としています。客室に貸し出し用や備え付けの加湿器を置く施設では、タンクの水の交換と清掃を、客室清掃の作業項目に入れるのか、別の担当が回収して行うのかを、あらかじめ決めておく必要があります。連泊中の客室で加湿器が使い続けられている場合の扱いも、あわせて決めておくと迷いがありません。
一方で、専門の管理に任せるべきなのは、貯湯槽の温度管理と清掃、給湯配管の循環の調整、給湯設備の保守点検、水質検査といった業務です。指針が求める貯湯槽の清掃や、循環ポンプ・流量弁の調整は、設備の構造を理解したうえで行う作業です。シャワーヘッドの分解洗浄や消毒も、製品によって分解できる範囲や使える洗剤が違うため、メーカーの取扱説明書に沿った方法を設備の担当と決めておくのが安全です。
清掃と設備管理のどちらが何をするかがあいまいなままだと、「清掃の人が見ているはず」「設備の業者が点検しているはず」という思い込みの隙間ができます。清掃で見つけた異常を誰に、どの手段で、いつまでに伝えるのか。その報告を受けた側が、いつまでに対応を決めるのか。この流れを一本にしておくことが、客室の水まわりの衛生を保つうえでの実務の要になります。
レジオネラ症の疑いが出たときに清掃側がしてはいけないこと
宿泊されたお客様にレジオネラ症やその疑いがあると分かったとき、清掃の現場がやってはいけないことがあります。それは、よかれと思って、その客室のシャワーや浴室を念入りに清掃・消毒してしまうことです。
衛生等管理要領は、「事故等の対応措置」の中で、施設利用者の中にレジオネラ症又はその疑いのある患者が発生した場合は、直ちに保健所に通報し、その指示に従うこと、としています。そのうえで注意する点として、「発生源と疑われる設備等の現状を保持すること。」「独自の判断で浴槽内等への消毒剤の投入を行わないこと。」を挙げています。入浴施設では浴槽の使用を中止すること、ともあります。要領の注記は、消毒剤が投入されると生きたレジオネラ属菌の検出は困難となるが、遺伝子を検出することは可能である、と説明しています。
保健所の調査では、どの設備が感染源だったのかを確かめることになります。その前に清掃や消毒で設備の状態が変わってしまうと、原因の特定が難しくなるおそれがあります。清掃スタッフや清掃の委託先には、こうした連絡を受けた客室は、保健所の指示が出るまで清掃の予定から外し、販売も止める、という決まりを共有しておいてください。保健所から、その客室以外の設備や、同じ給湯の系統につながる客室についても指示があった場合は、それも同じように扱います。清掃の割り振りを担当する責任者が、フロントや支配人からの連絡を確実に受け取れる経路をつくっておくことも欠かせません。
要領はあわせて、事故等の発生に迅速で適切に対応できるよう、医療機関等との通報網の整備など組織的な体制を確立しておくことも求めています。保健所への連絡は施設の側で行うことですが、清掃の現場が「止まるべきときに止まれる」ように、連絡の順番を平時から決めておくことが大切です。
点検の記録と清掃・設備の役割分担の決め方
客室のシャワーと給湯の管理を日々の運用に根づかせるには、手順書と点検表をつくり、記録を残し、責任者を決めることが基本になります。これは、指針と衛生等管理要領がともに求めている考え方です。
指針は第七「自主管理」で、施設の管理者は自主管理手引書及び点検表を作成して従業者等に周知徹底するとともに、管理者又は従業者の中から日常の衛生管理に係る責任者を定めることが必要である、としています。衛生等管理要領は、施設設備を定期的に清掃し、必要に応じて補修や消毒を行ったうえで、その記録を作成し、3年以上保存することを求めています。
客室の給湯とシャワーについて手順書を整えるときは、次のような項目を一つずつ決めていくと、清掃と設備管理の両方で使える形になります。客室清掃のたびに確認する項目と、その確認で異常に気づいたときの報告先。使われていない客室に湯を流す間隔(要領の目安は少なくとも週に1回)と、流す時間、実施者、記録の方法。シャワーヘッドとホースを点検・洗浄する頻度と、その担当が清掃なのか設備なのか。加湿器を置く時期の、タンクの水の交換と清掃の担当。貯湯槽の温度確認と清掃、保守点検の頻度と担当業者。お客様の体調不良の連絡を受けたときに、清掃を止める連絡の順番。
清掃を外部に委託している場合は、これらのうち清掃側が担う項目を、委託の業務範囲と報告の方法として契約前にすり合わせておくと、委託先が替わっても管理の水準を保ちやすくなります。確認の記録を清掃の日報に含めるのか、別の点検表にするのかも、あわせて決めておきましょう。記録が残っていれば、保健所の立入検査の際や、万一の事故の際にも、施設として何をしてきたかを示すことができます。
出典:厚生労働省「レジオネラ症を予防するために必要な措置に関する技術上の指針」(平成15年厚生労働省告示第264号、平成30年厚生労働省告示第297号による改正を反映した版)、厚生労働省「旅館業における衛生等管理要領」(令和8年1月20日の改正までを反映した版)、旅館業法、建築物における衛生的環境の確保に関する法律施行令(いずれもe-Gov法令検索)、東京都「東京都こどもセーフティプロジェクト」コラムvol.013「子どもをやけど事故から守る予防策とは?」。本記事では、これらの内容を当社が要約・編集して紹介しています。
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