ホテル客室清掃の脚立と高い所の作業|墜落・転落を防ぐ使い方と手順
客室清掃の作業は、床やベッド、水まわりといった「手の届く高さ」が中心です。けれども、照明のかさやエアコンの吹き出し口、カーテンレールの上、クローゼットの上の棚など、ときどき手を伸ばさなければならない場所もあります。そのとき、手近な脚立や、ときには椅子や浴槽のふちに乗って作業してしまうことが、墜落・転落のけがにつながります。
本記事では、株式会社ライフスタッフが、ホテルの支配人・運営担当者の方に向けて、客室清掃で脚立を使う作業や高い所の作業を安全に行うための考え方を、厚生労働省・都道府県労働局のパンフレットと、労働安全衛生規則の定めとあわせて整理します。客室清掃のけがのうち、ベッドメイクの腰痛や床での転倒とは別の、「足元を高くする作業」に絞った内容です。
客室清掃にもある「高い所」の作業
客室の中で、床に立ったままでは届きにくい場所を挙げてみると、意外に多いことに気づきます。天井や壁の照明器具のかさ、エアコンの吹き出し口やその上面、カーテンレールの上、クローゼットや荷物棚の上段、洗面台の鏡の上の縁、天井の換気口などです。毎回の客室清掃で触れる場所ではなくても、ほこりがたまれば目につきますし、点検の際に指摘されることもあります。
こうした場所は、毎日の清掃の流れの中で「気づいたついでに」手を伸ばしがちです。急いでいるときほど、脚立を取りに行く手間を惜しんで、椅子や荷物台、ベッド、浴槽のふちなど、もともと人が乗るためのものではない場所に足をかけてしまいます。高い所の作業が危ないのは、作業そのものよりも、こうした「ついで」の判断が積み重なることにあります。
そこで大切になるのが、高い所の作業をどの場面で、誰が、どの道具で行うのかを、あらかじめ決めておくことです。その前提として、まず脚立やはしごの作業で実際にどのような災害が起きているのかを見ておきます。
低い脚立でも重いけがになる:パンフレットが示す災害の傾向
厚生労働省・都道府県労働局・労働基準監督署のパンフレット「はしごや脚立からの墜落・転落災害をなくしましょう!」(平成29年3月)は、はしごや脚立について、ごく身近な用具であるため、墜落・転落の危険をそれほど感じずに使用する場合が多いのではないかと問いかけたうえで、過去の災害事例を見ると「骨折などの重篤な災害が多数発生し」、負傷箇所によっては死亡に至る災害も少なくないとしています。
同じパンフレットは、労働安全衛生総合研究所の分析(平成18年の休業4日以上の労働者死傷病報告から抽出したもの)を紹介し、脚立が原因の災害のうち墜落・転落災害は約86%で、傷病別では骨折が全体の約3分の2を占めると説明しています。データとしては古いものですが、「脚立で起きるけがは、落ちて骨を折る形が多い」という傾向は、今も現場で意識しておく価値があります。
見落とされやすいのは、高さの感覚です。北海道労働局のリーフレットには、道内で起きた死亡災害の事例として、「洗濯物を干すため脚立に立ち(46cm)作業したところ、バランスを崩して墜落し、臀部を強打。」、「高さ1.1mの脚立を用いてバスの窓ふき作業中、バランスを崩して墜落し、頭部を強打。」といった例が挙げられています。事務室の天井裏の空調設備を調整するために脚立に立ち(約1.2メートル)作業していて、バランスを崩して墜落し、後頭部を強打した例もあります。
客室で使う脚立や踏み台も、こうした事例と同じくらいの高さのものがほとんどです。「この程度の高さなら大丈夫」という感覚こそが、使い方の基本を省かせる原因になります。客室清掃の高い所の作業も、低い脚立だから安全とは考えず、同じ基本を守る対象として扱うことが出発点です。
脚立を使うときに守りたい基本
前述のパンフレットは、脚立の典型的な災害発生原因として、天板に乗ってバランスを崩す、脚立にまたがってバランスを崩す、荷物を持ちながらバランスを崩す、の3つを挙げ、それぞれに対策の例を示しています。北海道労働局のリーフレットも、脚立の安全な使用のポイントを7項目にまとめています。客室清掃の場面に置きかえて、要点を整理します。
一つめは、天板に乗らないことです。パンフレットは、天板での作業は簡単にバランスを崩しやすいので禁止し、より安全な代替策を検討するよう示しています。北海道労働局のリーフレットも、天板の上で作業せず、天板から2段目以下の踏みさんを使うよう呼びかけています。天板に乗らないと届かない場所は、その脚立では高さが足りない、と考えるのが基本です。
二つめは、脚立にまたがらず、片側を使って体を支えることです。パンフレットは、脚立にまたがっての作業は一旦バランスが崩れたら体を戻すのが非常に難しいとし、脚立の片側を使って作業すると、両手・両足のうち3点で体を支える「3点支持」がとりやすいと説明しています。
三つめは、荷物を手に持ったまま昇り降りしないことです。客室清掃では、クロスや洗剤のボトル、外したカバーなどを手に持ったまま脚立を昇り降りしがちです。パンフレットは、昇降時は荷物を手に持たず、3点支持を守るよう示しています。道具は腰のポーチに入れる、あるいは脚立に上がってから下の人に渡してもらうなど、両手を空けて昇り降りできる段取りにしておくことが大切です。
このほか、北海道労働局のリーフレットは、凸凹した場所や傾斜のある場所では使用しないこと、身を乗り出したり頭の真上での作業をしたりしないこと、脱げやすい又は滑りやすい履物を履かないことを挙げています。照明のかさやエアコンの上面は、頭の真上に手を伸ばしやすい場所です。届きにくいと感じたら、無理に体を伸ばさず、いったん降りて脚立の位置を変えるようにします。
頭部の保護についても触れておきます。パンフレットは、はしごや脚立を使用する際は、高さ1メートル未満の場所での作業であっても墜落時保護用のヘルメットを着用して頭部の負傷を防ぐよう呼びかけ、別のページでも「必ず墜落時保護用のヘルメットを着用して下さい」と念を押しています。客室清掃では、ヘルメットの用意も含めて、脚立を使う作業を毎回の清掃の流れから切り出して計画することが現実的です。脚立を使う作業は「頭を打つおそれのある作業」であるという認識を現場で共有したうえで、ヘルメットを置く場所や着用のタイミングも手順に書いておくと、着用が習慣になりやすくなります。
労働安全衛生規則が定める脚立の条件と、2メートル以上の作業
脚立そのものの条件は、労働安全衛生規則第528条に定められています。事業者は、脚立については、次の条件に適合したものでなければ使用してはならないとされています。丈夫な構造とすること。材料は、著しい損傷、腐食等がないものとすること。脚と水平面との角度を75度以下とし、かつ、折りたたみ式のものにあっては、脚と水平面との角度を確実に保つための金具等を備えること。踏み面は、作業を安全に行うため必要な面積を有すること。移動はしごについても、同規則第527条で、丈夫な構造、著しい損傷や腐食がない材料、幅は30センチメートル以上、すべり止め装置の取付けその他転位を防止するために必要な措置が定められています。
客室清掃の現場に置きかえると、開き止めの金具がゆるんでいる脚立、脚の滑り止めがすり減ったり外れたりしている脚立、踏み面が割れたりへこんだりしている脚立は、使い続けない、ということです。パンフレットにも、はしごの脚部の滑り止めが剥がれていて、はしごが滑ってそのまま墜落した事例が紹介されています。使う前に開き止めと脚の滑り止めを確かめる、傷んだ脚立は使わずに報告する、という手順を決めておくと安心です。
また、同規則第518条は、高さが2メートル以上の箇所で作業を行う場合において墜落により労働者に危険を及ぼすおそれのあるときは、足場を組み立てる等の方法により作業床を設けなければならないとしています。作業床を設けることが困難なときは、防網を張り、労働者に要求性能墜落制止用器具を使用させる等の措置を講じなければならない、という定めもあります。ふだんの客室清掃でこの高さの作業が生じる場面は多くありませんが、吹き抜けのあるロビーやエントランスの照明、天井の高い宴会場などは、客室清掃の延長で手を出す作業ではない、という線引きが必要です。
これらの措置を講じる立場にあるのは、そのスタッフを雇用している「事業者」です。労働安全衛生法第21条第2項は、事業者は、労働者が墜落するおそれのある場所等に係る危険を防止するため必要な措置を講じなければならないと定めています。なお、派遣で受け入れているスタッフについては、労働者派遣法第45条第3項により、派遣先の事業を行う者が、派遣スタッフを使用する事業者とみなされ、労働安全衛生法の第20条から第27条までなどの規定と、これらに基づく命令の規定(本記事で取り上げた労働安全衛生規則の条文を含みます)が適用されます。客室清掃を自社のスタッフで行っているホテル、派遣スタッフを受け入れているホテルでは、脚立の条件や高い所の作業の扱いは、施設自身の安全管理の課題になります。
椅子やベッドに乗らない:客室ならではの危ない代用
客室には、脚立の代わりに足をかけたくなるものが多くあります。デスクの椅子、荷物台、ベッドのマットレス、浴槽のふち、便器のふたなどです。どれも人が上に立って作業することを前提に作られたものではありません。キャスター付きの椅子は回転したり動いたりしますし、マットレスは足元が沈みます。浴槽のふちは幅が狭く、清掃中は水や洗剤で濡れていることもあります。
パンフレットには、はしごが水で濡れていたため足元が滑って墜落した事例や、手に荷物を持って脚立を降りようとしたところ、足元がよろけて背中から墜落した事例が挙げられています。浴室の清掃は、足元が濡れやすく、両手がふさがりやすい作業です。浴室の換気口やシャワーフックの上部など高い所に手を伸ばす作業は、とくに「何かに乗って済ませる」ことが起きやすい場面です。
代用を防ぐいちばんの方法は、代用しなくて済む道具と段取りを用意しておくことです。パンフレットは、はしごや脚立を使う前に、墜落の危険性が相対的に低い可搬式作業台や手すり付き脚立などに変更できないかを検討するよう示しています。客室清掃では、そもそも足元を高くしなくて済むように、柄の長いはたきやモップなど床に立ったまま届く道具を用意する、という方法も考えられます。脚立をカートに積むのか、フロアごとに置き場所を決めて必要なときに取りに行くのか、といった配置も、代用を減らす大事な要素です。
そのうえで、「椅子・荷物台・ベッド・浴槽のふち・便器には乗らない」と、禁止事項として手順書に書いておくことをおすすめします。暗黙の了解のままにしておくと、急いでいる日や人手が足りない日に、いつの間にか崩れてしまうからです。
高い所の作業を清掃手順のどこに置くか
高い所の作業を安全に行うためには、毎回の客室清掃の流れから切り離して考えるのがひとつの方法です。チェックアウトから次のチェックインまでの限られた時間の中で、脚立を出して照明のかさを拭く作業まで組み込むと、どうしても急ぎがちになります。照明やエアコンの吹き出し口、カーテンレールの上などは、空室の多い日や閑散期に定期清掃として計画し、時間に余裕を持って行うほうが、品質の面でも安全の面でも無理がありません。
定期清掃として行う場合は、2人1組で作業できるように人を割り振ると、脚立を押さえる人、道具を受け渡す人を確保しやすくなります。前述のとおり、荷物を持ったまま昇り降りしないためにも、下で道具を渡してくれる人がいることは大きな助けになります。
清掃と設備の担当の線引きも、あわせて決めておきます。照明のかさの表面のほこりを拭き取るのは清掃の範囲でも、電球の交換や照明器具の取り外し、エアコン内部の洗浄、換気口の内部の清掃などは、設備の担当や専門の業者が行う作業として分けておくと、清掃スタッフが判断に迷いません。パンフレットにも、脚立をまたいで乗った状態で蛍光灯を交換していたところ、バランスを崩して階段に墜落した事例が紹介されています。清掃スタッフが「ついでに電球も替えておこう」と判断しなくて済むよう、担当外の作業に気づいたときは手を出さずに報告する、という流れを決めておくことが大切です。
脚立そのものの管理も、手順に含めておきます。使う前に開き止めの金具と脚の滑り止めを確かめること、傷んでいる脚立は使わずに報告して使用を止めること、使い終わったら決まった場所に戻すこと。この3点を点検表や日報の項目に入れておくと、道具の傷みに早く気づくことができます。万一、墜落・転落でけがをしたときの初動や労災保険の基本は、ホテル清掃の労災・怪我への備えにまとめています。
清掃を委託している場合に決めておきたいこと
客室清掃を外部の清掃会社に委託している場合、委託先のスタッフの安全管理は、雇用している委託先が行うのが原則です。そのうえで、施設側と委託先との間で、契約前や仕様書の段階ですり合わせておきたい事項があります。
まず、高い所の作業を委託の業務範囲に含めるのかどうか、含める場合はどの場所を、どの頻度で行うのかです。照明のかさやエアコンの吹き出し口、カーテンレールの上などを毎回の清掃に含めるのか、定期清掃として別に計画するのかによって、必要な人員や時間が変わります。2メートル以上の高さになる場所や、吹き抜けのある共用部の照明などは、客室清掃の範囲とは分けて扱うことを明確にしておくと、現場での判断の揺れを防げます。
次に、脚立などの道具をどちらが用意し、点検するのかです。施設の備品の脚立を使うのか、委託先が持ち込むのかによって、点検と交換の責任の所在が変わります。曖昧なままにしておくと、傷んだ脚立が誰にも交換されないまま使われ続けることになりかねません。
あわせて意識しておきたいのが、作業の条件の付け方です。労働安全衛生法第3条第3項は、仕事を他人に請け負わせる者は、施工方法、作業方法、工期、納期等について、安全で衛生的な作業の遂行を損なうおそれのある条件を付さないように配慮しなければならないと定めています。1室あたりの清掃時間を極端に短く設定したうえで高い所の清掃まで求めると、脚立を取りに行く時間を惜しんで椅子に乗る、といった無理な作業を生みやすくなります。作業量と時間のバランスは、委託先と相談しながら決めることが大切です。
なお、委託中の清掃スタッフに施設の担当者が直接作業のやり方を指示する形は、請負契約の考え方と合いません。高い所の作業の方法や手順について気になる点があれば、委託先の責任者を通じて伝え、手順書や仕様書に反映してもらう流れにしておくと、指示系統が混乱しません。ただし、浴槽のふちや椅子に乗っているなど、いまにも墜落しそうな場面を見かけたときは、驚かせないよう落ち着いて声をかけ、作業を止めて降りてもらうことを優先してください。厚生労働省の通達「注文者・事業者等が安全衛生上の指示等を行う場合における留意事項(労働基準法上の労働者性、いわゆる偽装請負との関係)について」(令和7年3月31日)は、そのまま作業を続けると業務上の災害につながる切迫した危険があるときに作業の一時中断などを指導・指示することについて、専ら安全衛生確保の観点から、業務上の災害を防止するために必要な注意喚起や指導・指示の範囲にとどまる場合は、直ちに偽装請負と判断されることはないと考えられるとしています。作業を止めてもらったあと、すぐに委託先の責任者へ連絡できるよう、責任者の連絡先と連絡の流れを決めておくと安心です。
本記事は、厚生労働省・都道府県労働局・労働基準監督署のパンフレット「はしごや脚立からの墜落・転落災害をなくしましょう!」(平成29年3月)、北海道労働局のリーフレット「はしご・脚立からの墜落、転落災害を防止するために!」、労働安全衛生法第3条第3項・第21条第2項、労働安全衛生規則第518条・第527条・第528条、労働者派遣法第45条第3項、厚生労働省の通達「注文者・事業者等が安全衛生上の指示等を行う場合における留意事項(労働基準法上の労働者性、いわゆる偽装請負との関係)について」(令和7年3月31日)をもとに、株式会社ライフスタッフが要約・編集して作成したものです。個別の作業の安全対策については、最寄りの労働基準監督署などにご確認ください。
客室清掃の手順づくりのご相談はライフスタッフへ
脚立を使う作業や高い所の清掃は、毎日の作業ではないからこそ、手順として書き出されないまま現場の判断に任されがちです。どの場所を、どの頻度で、どの道具を使って、誰が行うのか。清掃の担当外の作業に気づいたときは誰に報告するのか。これらを決めて手順書や点検表に落としておくことが、けがを防ぐ土台になります。株式会社ライフスタッフは、ホテル・旅館の客室清掃を請負としてお引き受けしています。作業範囲・頻度・報告方法はご契約前にすり合わせ、作業の指示・管理は現場ごとに定める当社の責任者が行います。清掃基準の策定や品質チェック体制づくりを支援する清掃オペレーションのコンサルティングの中で、高い所の清掃をどの場面に組み込むかといった清掃基準づくりのご相談もお受けしています。施設に合った客室清掃の進め方を整えたいときは、お気軽にお問い合わせください。